協働を段階論で捉えるロジックモデルの考察

協働について

協働を計画的に発展させるロジックモデルは管見の限り見当たりませんでした。なので、ここでは、オースティン(James E. Austin, 2000)と、サリバンとスケルチャー (Helen Sullivan・Chris Skelcher, 2002)の、コラボレーション(協働)のロジックに注目したいと思います。

James E. Austin(2000)『The Collaboration Challenge』Wiley
・Helen Sullivan・Chris Skelcher (2002)『Working Across Boundaries』Macmillan International Higher Education

Austinのロジック

Austinのロジックは、協働の発展過程を段階的に捉えていて、「フィランソロピー(奉仕活動・ボランティア)」「トランザクション(二者間の取引)」「インテグレーション(事業の統合)」3段階に分けています。また、協働が発展していくためには、①関与の度合い、②ミッションの重要性、③リソースの大きさ、④活動範囲、⑤相互作用が生じる機会、⑥管理の複雑さ、⑦戦略的価値という7つの要因が事業の進行に伴い増大・拡大していくことで、事業目的の達成に近づいていくとしています。

SullivanとSkelcherのロジック

SullivanとSkelcherのロジックは、組織論的な視点から協働を連続体として捉えていて、協働の発展過程は、基本的に「ネットワーク」「パートナーシップ」「契約」の3段階に分けることができるとしています。

AustinのロジックにSullivanとSkelcherのロジックをあわせてみると

Austinのマネジメント的な視点からのロジックに、SullivanとSkelcherの組織論的な視点をあわせると、下記のようになります。

  • 第1段階(フィランソロピー)に必要な組織の関係:アドホックでインフォーマルなネットワーク
    第1段階の活性化は第2段階の活性化につながります。そのためには、ネットワークを拡大させ、情報量・交流量を増大させることが必要になります。メトカーフの法則によれば、ネットワークは、ある閾値を超えると参加者が参加者を呼ぶ正のフィードバックによる成長が得られることが示唆されていて、参加する人が多いほど、そのネットワークの価値は高くなります。
  • 第2段階(トランザクション)の段階に必要な組織の関係:パートナーシップ
    事業開始時に7つの要因がステップ2のレベルに達し、ステップ3を目指すための準備が整っている状態がレベルとして望ましいと言えます。1対1だけではなく、複数の主体が参加することで、レベルを上げることも考えられます。
  • 第3段階(インテグレーション)の段階に必要な組織の関係:契約
    事業が統合へと発展し、双方の関係は契約となります。

上記の階段のようなかたちになっている協働の発展過程を図(図1 協働の階段)にしてみます。

協働の階段

図1 協働の階段
オースティン(James E. Austin, 2000)と、サリバンとスケルチャー (Helen Sullivan・Chris Skelcher, 2002)を参考にして筆者作成

図は階段式になっていて、第1段階の活動が小さなものにみえますが、必ずしもそうではありません。小さな活動も積み重ねれば厚みと重みを増すこと、また、小さな活動でも戦略的価値を高め、イノベーションが起こせることはいうまでもありません。

発展的な協働の源泉は、第一段階(フィランソロピー)のアドホックでインフォーマルなネットワークの活性化にあると考えられます。

Austinのロジックの7つの要因について

前述したAustinのロジックにある7つの要因の具体的な内容と管理方法について、想定されることを例として以下にあげておきたいと思います。7つの要因が事業の進行に伴い増大・拡大していくことで、事業は目的の達成に近づいていきます。

①関与の度合い:一緒に作業をする工数や、双方の対話やメールなど、時間や情報・交流の量など。数値で管理し、評価することが、説明のしやすさ・わかりやすさという面では望ましいですが、週1回のメール報告と月1回のミーティングなど、ルールによる管理もありえます。

②ミッションの重要性:事業テーマの共有や、いつまでにどのようなことをどの水準で行うかを双方が納得して決め、共有すること。チェックシートや目標値の設定など、数値による管理が可能である。

③リソースの大きさ:提供できる人員や資金などのキャパシティ。数値による管理が可能である。

④活動範囲:事業に関わる人の属性や組織などの範囲。数値や文章で管理をすることができる。

⑤相互作用が生じる機会:共有する課題意識の強さや、共有する時間や対話が多いことから、相互作用が強く働くこともある。相互作用の内容は予測できない場合もあるため、管理上、望ましくはありませんが、文言による目標設定なども考えられます。また、多くの人が事業に参加することで、相互作用が誘発される機会は増えるため、参加人数を目標値とするのであれば、数値で管理することが可能です。

⑥管理の複雑さ:事業を実施するための準備や事務連絡、プログラムの進捗管理など。工数は数値で管理することができる。

⑦戦略的価値:最終アウトカム(最上位計画)への貢献度。
最終アウトカムは長期的な視点となることから、短期的なアウトカムや中期的なアウトカムを、アウトプットと最終アウトカムのあいだに設定することも考えられます。ロジックモデルは、基本的な型のひとつとして、(1)インプット(投入: ひと・もの・かね)、(2)アクティビティ(活動: 行動や取り組み)、(3)アウトプット(直接の結果: 直接的成果)、(4)アウトカム(成果: 最終的な効果)により構成され、プログラムの流れはこれら(1)~(4)の流れをたどると説明されることが多く、最終アウトカムの後に、インパクトの測定・評価が加わる場合もあります。また、ロジックモデルは活用する目的や場面によって異なり多様です。なお、先行研究によれば、「公的事業においてアウトカムを測定することは困難 (後, 2007)」です。現在は困難でも、今後、デジタル社会が実現すれば、可能になると考えられます。
・ピーター・H・ロッシ,マーク・W・リプセイ,ハワード・E・フリーマン(2005)『プログラム評価の理論と方法』⽇本評論社
・後房雄(2007)「理念的協働論から契約の設計とマネジメントへ」『自治体学研究』第95号,神奈川県自治総合研究センター研修研究部

数値で管理しにくいこと

数値で管理しにくのが、⑤相互作用が生じる機会です。⑤相互作用が生じる機会については、AI同士の自動交渉技術などにより、数値化することができるようになるかもしれません。しかし、ロッシ(ロッシ,2005)が、予測困難な意図されないアウトカムが生じる可能性もあると言っているように、人が係ることは、相互作用を計画的に、システマティックに管理することは、現在のところ、難しいです。人と人が出会う順番、誰かの一言、天気が結果を変えることもあり、偶発的なことを管理するのは困難だからです。

上記で、発展的な協働の源泉は、第一段階(フィランソロピー)のアドホックでインフォーマルなネットワークの活性化にあると述べましたが、情報をデジタル化して、デジタル化した情報が交流することで、予兆のような、何か規則的なようなことが、相互作用においても次第に見えてくるのではないかと考えています。