近年の協働の傾向について

「協働」をキーワードにして「CiNii」で検索された論文タイトル(2020年)の共起ネットワーク ※分析には「KH Coder」を使用し、集計単位は最小出現数50、描画する共起関係は上位50としました。 協働について

地方分権の推進と行財政の悪化による公共サービス縮小化の流れの中で、行政と市民の役割分担を見直すとして、「協働」は、1990年代後半に市民参加(参画)に先駆的に取り組む自治体の自治基本条例などで用いられ、2000年代になると、「新しい公共」という言葉の下で、全国の自治体に広がっていきました。

一時は大きな盛り上がりを見せた行政と市民の「協働」ですが、近年、公共政策などの分野では、「協働」を研究する者は、少なくなっているようです。一方で、「協働」という言葉自体は社会に定着しており、他の分野で、「協働」に関連した研究が行われているのではないかという疑問もわいてきます。これについて確認するため、まずは「協働」に関連する論文の数の推移を調べてみました。

協働に関する論文数の推移と協働が研究されている分野

学術論文データベース「CiNii」で、「協働」をキーワードにして論文を検索し、その件数をグラフにしました(図1)。1995年は33件でしたが、2000年前後から件数が増加し、2019年は1,828件、2020年は1,582件でした。2020年は減少していますが、コロナ禍の影響を受け、論文の発表が少なかった可能性があります。

2020年の1,582件の論文について、各論文のタイトルを計量テキスト分析し、共起ネットワーク図にしたところ、7つのプロット(言葉のまとまり)が描かれました(図2)。このプロットから、「学校、教育」の分野や「医療、福祉」の分野、「ロボット」の分野において、協働に関連する論文が多いことがわかりました。

図に描かれた7つのプロットは、「①協働・地域・教育・実践・研究・学校・連携・特集・支援」、「②社会・福祉」、「③大学・教職・学生」、「④支援・学習」、「⑤看護・医療・介護・ケア・職種」、「⑥安全・評価・ロボット」、「⑦推進・事業」です。この図は、タイトルに含まれている出現頻度の高い語句と語句の関係性を示していて、出現頻度の高い語句ほど円が大きく、線の太さは関係の強さを示しています。

協働の事例を扱う先行研究について

次に、前で述べた2020年の1,582件の論文について、タイトルに「事例」、または「実践」が含まれる論文を抽出したところ、100件の論文が対象となりました。このうちの49件が「学校、教育」の分野で、27件が「医療、福祉」の分野でした。

「学校、教育」、「医療、福祉」の分野は、前述したように、協働に関連する論文の件数が多い分野です。これらの分野では、どのような背景から協働が行われ、協働にどのような効果を期待をしているのでしょうか。次に、論文の内容を見ていきたいと思います。

なお、「ロボットとの協働」の実践や事例については、論文のタイトルからは見つけることができませんでした。しかし、「ロボットとの協働」については、デジタルレイバーの導入などを進める組織も増えてきたことから、今後、事例研究も増加していくと考えられます。

「学校、教育」の分野に関連する協働について

協働の事例を扱った論文から、「学校、教育」の分野に関連する協働の背景には、学習指導要領や学校理念などの、基準や目標の達成ということがありました。これらの達成に向けた取り組みとして、協働が行われています。例えば、授業の一環として行われる協働もあり、一人ひとりが望ましい姿に変容していくための手段として、また、変容を妨げることを解決するための手段として、協働が行われていました。

協働の効果としては、リーダーシップや自己変容など、個人の内発的な発展や、個人の変化が周囲や組織にもたらす効果などがあげられていました。

協働の課題としては、生徒や学生は入れ替わるため、継続している協働も、再現が難しいことや、職員が多忙を極めていることから、課題を解決するための協働であっても、新たなことは始めないと決めている学校もありました。論文の筆者が協働の発起人となっている事例もあり、筆者がいなくなれば、協働は終了する可能性もあり、学校現場の労働力不足の深刻さがうかがえました。

「医療、福祉」の分野に関連する協働について

協働の背景には、地域包括ケアを推進するための多職種連携や、チーム医療の推進などがありました。専門的な部署が連携するために、情報共有やコミュニケーションの改善を、協働で行った事例が多くみられ、潤滑な連携を実現させるための行動を、協働と呼んでいるような印象を受けました。

協働の効果として、顔の見える関係づくりや、情報共有が重要であることの再認識などがあげられていました。一方で、医療現場は忙しく、緊急事態への対応もあり、協働で得た効果を維持することの難しさを示す論文もありました。

行政と市民の協働との違い

今回の調査では、協働に関連した研究が多く行われているのは、「学校、教育」と「医療、福祉」の分野でした。これらの分野は、行政と同様、質の高い公共サービスの提供が求められます。人材不足や資金不足という点も、共通する場合があります。

これらの分野が、行政と市民の協働と違うと考えられる点は、行政と市民の協働に期待された、経費削減というような金銭的な面ではなく、協働を通じた自己成長やコミュニケーションの円滑化など、人的側面というような、数値化し難い価値を重視していることです。

協働:Interaction(インタラクション)

協働の「働く」は、「労働」という意味と、「働きかける・作用する(相互作用:interaction)」という意味がありますが、行政と市民の協働は前者、「学校、教育」と「医療、福祉」の分野は後者の意味が強いようです。

協働の概念は多義的です。また、協働と意味が似ていて音が同じである共同・協同との区別もつきにくいです。コ・プロダクションやコラボレーション、パートナーシップが、協働と訳されることもあります。

近年の協働は、「相互作用(interaction)」によるイノベーションが期待されているようにも見えることから、「Interaction」が協働と訳されることがあってもよいのではないかと思います。